第14期受講生:Morus
世界で戦うスタートアップへの一歩踏み出す
Morus(モルス)株式会社は、多くのタンパク質を含んだカイコの原料を食品や化粧品などの領域に供給するスタートアップで、2021年4月に設立された。代表取締役の佐藤亮CEOはVCでの実務経験があり、世界的にタンパク質が不足している点を踏まえ、他の昆虫にない豊富な栄養成分を持つカイコに着目。「世界で戦うスタートアップになりたい」という理想を掲げて起業した。一方、ASACは佐藤氏の食糧問題に対する高い視座や、カイコの潜在的な市場性、事業の社会的な意義を高く評価し、ASACの第14期スタートアップアクセラレーションプログラムに採択した。当初は試作品の開発を進めている段階だったが、5カ月間のプログラムを通じ、ネットワークの構築や資金調達のアドバイスなど、さまざまな支援を受けて複数のプロダクトのプロトタイプを構築。大手食品会社との協業も開始し、世界で戦うスタートアップへの一歩を踏み出している。
Morus株式会社
代表取締役社長 CEO
佐藤 亮
カイコでタンパク質不足の問題に取り組む
言葉の壁の問題などもあって、世界で活躍している日本発のスタートアップは極めて少ない。佐藤氏はこうした現状を打破し、海外で戦えるイノベーションを起こしたいと考え、VC時代、シーズ段階にある研究の事業化支援に取り組んだこともあり、研究開発の領域に着目した。言語や国境の壁が低く、高い技術・素材で勝負すれば競争優位性を発揮し日本経済を復活できると判断。佐藤氏自身、タンパク質にもともと興味があり、日本の研究が強い領域を探したところ、カイコに行き着いた。数多くの論文を読み込むうちに信州大学の塩見邦博教授と出会い、目指すビジョンがすりあって共同創業に発展していった。
アクセラレーターらの壁打ちで、自社事業を客観視
その後、事業をどういった形で成長させるのかについて模索する中、佐藤CEOがASACに対し関心を抱いたきっかけは、株式会社any styleの萩原湧人CEOの勧めであった。萩原氏は起業仲間でもあり、ASACの第11期生だ。
ASACでは各起業家に、アクセラレーターという2人の伴走者が付いてサポートする。萩原氏に特に薦められたのが、そのアクセラレーターと専門家、事業会社やベンチャーキャピタル(VC)などで構成されたメンターによるディスカッションだ。
創業して間もない経営者には、ディスカッションパートナーが少ない。必然的にチームメンバー以外と話す機会は減り、客観的な意見も耳に届きにくくなる。その点、ディスカッションパートナーとしてのメンター、アクセラレーターの存在価値は大きい。同社はデット・ファイナンスによる資金調達が課題だったため、その分野の知見について、フォローを受けることができる点も魅力的であった。
日本から産業を作るという姿勢で臨む
アクセラレーターのうちの1人は「佐藤代表は日本から産業を創るという意識が高く、視座が高かった」と振り返る。プログラムのスタートにあたってアクセラレーターが特に重視したのは、Morusの競争優位性を明確化させること。世界中には数多くの昆虫を原料としたスタートアップが活動しており、他社との違いを伝えることが難しいからだ。
養蚕をはじめとしたカイコ関連の研究は日本が先頭を走っている。カイコを食や医薬品などのバイオ原料として活用しようとするスタートアップが存在するのは日本だけ。また、ロシアによるウクライナ侵攻を機に、食糧危機問題が世界的に一段と深刻化し、代替タンパク質に対するニーズが高まるとみられる。このため高付加価値な分野で競争するにあたって、カイコは重要な役割を果たすとの認識でアクセラレーターとの間で一致し、本格的な支援が始まった。
専門家との間を迅速につなぎ、デット・ファイナンスによる調達に成功
当初掲げた目標の一つは、プロダクトを完成させて初期の仮説を検証し、ユーザーからフィードバックを得ること。そのための資金調達がより重要な課題となった。会社が資金を調達する場合、金融機関や投資家からお金を借り入れるデット・ファイナンスと、株式を発行することで資金調達を行うエクイティ・ファイナンスという2つの方法がある。佐藤氏が希望していたのは、デット・ファイナンスによる調達。アクセラレーターはそれを聞くとデット・ファイナンスにおける論点を洗い出し、キックオフミーティングの翌日には外部の専門メンターとのディスカッションの機会を設けた。事業計画書をゼロから作成し、デット・ファイナンスを成功させた。
ワークショップを通じた横のつながりも大きな財産
デット・ファイナンスだけではなく、起業家の要望に対するアクセラレーターの対応は早い。その結果、デット・ファイナンスだけではなく協業を1件獲得するという目標もクリアする。スタートアップにとってスピードは大きな価値の一つだ。また、アクセラレーターを通じ事業の課題について整理することを学び、ワークショップから得た知見と同期からの学びも事業に取り入れた。事業ステージの近い横とのつながりも財産だ。
Morusはプログラムの期間中、宿泊室をはじめとしたASACのアセットを積極的に活用していた。Morusの5カ月を支援したアクセラレーターは「ASACを訪れたら何かが解決されるわけではない。施設、人…。ASACを可能な限り活用して事業を伸ばそうというマインドがある起業家こそが、次のステージに事業を推し進めることができる」と指摘する。 ASACとしては佐藤氏のように、事業の成長に貪欲な起業家にエントリーをしてほしい。